あれから17年後
東京湾を埋立てて出来た、横浜MM21地区。
隣接する高層ビル群と商業施設、そして大観覧車。
その一角に半月の形をした建物がある。
そこが本日、彩子と宮城の挙式及び披露宴が執り行われる有名ホテルだ。
船の帆も連想させるその形は、これから人生の大海原に漕ぎだすカップル達に人気の結婚式場でもある。
新婦の控え室では、純白の打ち掛けに文金高島田姿の彩子が鏡で全身を映していた。
「すごくお綺麗よ」
仲人を務める赤木の妻が目を細める。
「ありがとう
…でも思ってたよりずっと重いですね、この頭」
紅を差した唇からペロリと舌を出した。
部屋のスピーカーから微かに流れる音楽は、どこかで聴いた事があるような懐かしい旋律を奏でている。
「宮城さんとは高校の頃からのお付き合いですってね?…主人から聞いてますよ」
「ええ、……まぁ
もっとも、ずっと同志みたいな関係だったんですけどね」
そう言って笑うと彩子は瞳を閉じた。
途端に瞼の裏で宮城と過ごして来た数え切れない年月が溢れ出す。
「ごめんね、リョータ
ずいぶん待たせちゃったね…」
鼻の奥がツンと痛くなった。
一方、新郎の控え室では赤木の声がスピーカーからの音楽を掻き消した。
「シャキっとせんかぁ
シャキっと!!!」
紋付き袴でひたすら部屋を歩き回る宮城の尻を叩く。
「いってぇよ、旦那ぁ
そう言う旦那だってさっきから俺と大して変わりゃしませんよ?」
「な~にを言っておる、このたわけがっ!!!
俺はいつでも平常心だ」
言った傍からテーブルのグラスを倒し、危うく一張羅の燕尾服を濡らす寸前の赤木だ。
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