あれから17年後


実家に着いた流川は一眠りした後、夕刻の繁華街に出掛けた。

目当ての場所は割烹「うおずみ」

以前、彩子から送られて来た地図をピックアップし
携帯片手に探しているがなかなか見つからない。

目印になっていた店が既になくなっているのだ。

久しぶりに美味い日本酒が飲みたかったのだが、かといって人に訊くのも億劫だし、今夜はもう諦めるかと思った時、背後から声が掛かった。

 「ひょっとして、湘北の流川じゃねぇか?」

聞き慣れないその声に振り返ると、スーツを着た彫りの深い顔立ちの男が立っている。

 「やっぱりそうか」

彼の親しげな態度に流川は「はぁ」と曖昧な返事をした。

 「俺の事、覚えてねぇか?陵南の池上、池上亮二
 魚住と一緒にやってた
 当時はディフェンスに定評があったんだがな」

魚住の名を出す池上だが、やはり流川には記憶がない。

「すいません、ちょっと」と軽く頭を下げると
仕方ないさと、彫りの深い顔立ちが苦笑する。

 「ところで何やってんだこんなところで…」

気まずい空気を払拭するように池上は話を続けた。

 「あ、もしかして魚住の店に行くとか?なんてな
 …まさかな」

 「……いや、
 そのまさかっす」

 「マジか!?」

 「…えぇ」

実は自分もこれから行くところだったと驚く池上を
見掛けによらずよく喋る男だと流川は表情を変えずに眺めている。

しかしちょうど良かった…これで美味い日本酒に有り付ける

流川は内心喜びながら池上の後ろについて行く。

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