「一部屋空きが出ました。」

そう病院事務局から連絡があった時「入居します」と、即答出来なかった自分を浅ましいと思った。

この話しをスルーすれば、カプセルコーポにまだ留まることが出来、毎日とはいかないが、トランクスと顔を合わせることが出来る―。しかし、いつまでも甘えるわけにはいかない・・・。

そんな葛藤を抱えながらカプセルコーポまで歩いて帰宅すると、カメラをカプセルコーポへと向ける男が視界に入った。

すぐにそれが、スクープを狙うカメラマンだと気付くと、敷地内に足を踏み入れることは出来ず、ブルマに「用事が出来たので遅くなる」と嘘を吐いてそのまま街を彷徨い、カフェでどうしようかと悩んでいるところへトランクスが現れたのだった。

―カプセルコーポを出る決心をするに至った先週の出来事を思い出しながら、ぐっと目を瞑ることで瞳から溢れそうになるものを回避していた瞼を開けると、ペリッと睫毛同士が剥がれる感覚がした。

「これも・・・ひと夏のアバンチュールって言うのかな・・・？あ、真夏の夜の夢？って、夜はいらないか。」

など呟きながら、普通なら出逢うことはなかっただろう、優しくも厳しく、知性と逞しさを兼ね備えた彼を想った。

大企業カプセルコーポレーションの若き社長として、これからも多忙な日々を過ごす彼はいつか自分のことなど忘れてしまうだろう。

そう寂しく微笑むと、リビングのテーブルに置かれた携帯電話が目に留まった。

じっとそれを見つめると、少し迷ってからメディカはテーブルへと手を伸ばした。