歩き出してすぐ

「明日もお仕事なんですね」

　そう言うメディカは、いつもの柔らかい笑顔を浮かべている。

「えぇ……」

　と、短い返事をすると

「社長さんはやっぱり大変ですね」

　悪戯っぽく、クスリと笑うメディカに何とも言えない気持ちが湧き上がってくる。

　喜びと緊張が入り混じった様なその気持ちは、波紋の様に胸の奥に広がっていくのだった。

「日曜は休みなので、トレーニングの後のんびりしますよ」

　トランクスは自身の心を誤魔化す様に言うと

「じゃあ、日曜日はゆっくりして下さいね」

　笑顔と共に、落ち着いた優しい声で労りの言葉を掛けられ、トランクスの中に広がる波紋の間隔はますます早くなっていくのだった。

　じんわりと熱く変化していく、この心を震わす波紋の正体が掴めそうになったちょうどその時

「それじゃあ、私はこちらなので……」

「あっ、ああ……！　そうですね……」

　と、２人は分かれる場所に来ていた。

　トランクスは波紋の正体を探って遠くに行ってしまっていた意識を慌てて引き戻した。

　メディカは、にこりと微笑むと

「おやすみなさい」

　と、軽く頭を下げ

「っ、おやすみなさい」

　と、トランクスも挨拶を返すのだった。

　メディカはトランクスに背を向けると、ゲストルームが並ぶ廊下へと歩き出した。

　トランクスはメディカの姿が見えなくなるまで、その後ろ姿を見つめるのだった。