メディカはカプセルコーポの前まで来ると、今日もまた立ち尽くしてしまった。昨夜のお礼にと思い買った、菓子折りの入った紙袋を持つ手に力が入る。

　この広い敷地に入って行くのは、どうも気が引ける。

　意を決して「お邪魔します……」と、遠慮がちに入ってしまう「庶民」な自分に苦笑いしながら玄関へと向かった。

　玄関ロビーに入ると、メディカはロビー専用のメイドロボに取り次ぎを頼んだ。

”メディカサマ　デスネ。シバラクオマチクダサイ”

　ロボット特有の声がすると、上階にいるブルマ達に知らされたようで、すぐにブラが下りて来た。

「おかえりなさい、先生！」

　階段を駆け下りて来るブラは、白いキャミソールにデニムのショートパンツという夏らしい姿で、とてもハツラツとしている。
　
　退院した元患者に会うことなどなかったメディカは、今まで通りの日常生活をスタートさせたブラを見て、医師としてこれ程嬉しいことはなく、知らず笑みが零れた。

「こんばんは、ブラちゃん」

「さ、先生！　上がって、上がって！」

　満面の笑みのブラに手を引かれ階段を上ると、リビングに近づくにつれとても美味しそうな匂いが流れて来る。

　そう言えば、家庭ではそろそろ夕食の時間ではないか……。

　世間とはズレている自身の体内時計に今更気付き「しまった……」という後悔の言葉が頭の中をよぎった。

「先生、おかえりなさい」

　リビングに入ると、ブルマがダイニングテーブルに夕食を並べていた。

　そしてそこには、ブルマの夫でありブラの父でもあるべジータが腕を組んで座っている。

（ど、どうしよう……）

　とてつもなく迷惑な時間に来てしまった。常識外れな自分がとても恥ずかしく、思わず足を止めたが

「さ、先生。こっちよ。座って座って！」

　ニコニコ顔のブラに強く手を引かれ、メディカは夕食の並ぶテーブルへと連れて行かれた。