「あら、火事みたいね」

　エアカーはしばらく進むと渋滞し始めた。どうやら近くで火災が起こったらしく、交通規制が掛けられているらしい。

　都の中心からは少し外れているが、人通りの多い場所だ。突然の火災に辺りは騒然とし始めている。

　警察も駆けつけ、交通整理がされ始めた様だ。

「先生のマンションまでもうすぐよね？　もう！」

　動いたり止まったりの繰り返しで、ブルマはうんざりした様に言うと

「あの、もうここでいいです。歩いて帰れますから」

　メディカは抱えていた鞄の持ち手を握ると

「ダメよ。ちゃんと送らせて。先生のマンションも見てみたいし！」

　目的はそれ！？　と心の中で突っ込みつつ、苦笑いをしているメディカをよそに、ブルマは窓を開けると近くで交通整理をしている警察官に声を掛けた。

「ちょっと！　ウエストハイムっていうマンションに行きたいんだけど。近いみたいだし、通してくれない？」

　ブルマがいつもの調子で尋ねると、その尋ねられた警察官は信じられない言葉を口にした。

「ウエストハイム！？　駄目ダメ！！　今、そのマンションから火の手が上がってるんだから！！　絶対近づかないように！！」

「へ……？」

　間の抜けた声が、メディカとブルマ両方から漏れた。

　空には夜空の色とは明らかに違う黒が広がっている。人々の叫ぶ声があちらこちらから聞こえ、周囲は騒然としてる。

「わ、私、見て来ます！」

　メディカは鞄を抱えると、エアカーを降り走り出した。

「ちょ、ちょっと！」

　後ろでブルマの声が聞こえたが、メディカはそのままマンションへと走った。

（うそ、うそ、うそ……！）

　心の中で何度も叫びながら、やじ馬を掻き分けて行く。

　マンションに近づくごとに人の数は増えていき進みにくくなったが、何とか押しのけマンションのある通りへ出た。

　しかし、そこは既に規制線が引かれ消防隊員が消化活動を行っている。

　メディカの視線の先には、オレンジ色の炎と黒煙を吐き出している見慣れた建物があった。

　バチバチ！　という爆ぜる音と共に、色々なものが混じった、何とも言えない焼ける臭いが、辺りに立ち込めている。

　メディカはその光景を、ただ呆然と見つめていた。