テレビやラジオから流れる歌や音楽を聴いてはいたけど、実際に楽器を弾きながら唄っているところを見たのは初めてだった。

　梨子ちゃんの弾く、どことなく懐かしさを感じるギターの音と、優しく澄んだ歌声は、木々に囲まれた夜の庭で幻想的に響いていて、その光景を見た瞬間、俺の胸に温かい灯が灯った。

　きっと、ギターを弾きながら唄う彼女の姿に「安らぎ」と「平和」というものを感じたんだろう。

　俺の住む世界では見たことがなかった、楽器を奏で唄う少女の姿の新鮮さに心が震え、彼女の歌をもっと聴いていたと心から思った。

　はじめは「恥ずかしい」という理由で、梨子ちゃんに唄うことを断られたが、何とか頼み込むと、彼女は少し考えてから唄ってくれた。

　電波を通さずに聴く、生の音楽。

　それが、こんなにも心に力を与えてくれるなんて思いもしなかった。

　音楽の力を知り「もっと梨子ちゃんの歌を聴きたい。また聴かせて欲しい」そう言って歌を乞うと、梨子ちゃんは躊躇いながらも頷き、俺の願いを受け入れてくれた。

　今度はどんな歌を唄ってくれるのだろう。

　はにかむ梨子ちゃんを見つめながら、俺は近いうちに開催されるだろう彼女の演奏会を、待ち遠しく思うのだった。