「ごちそうさまでした」

　頭を下げる梨子に

「いいよ」

　そう答えると

「ゴメンね。また、ごちそうしてもらちゃって……」

　梨子は申し訳なさそうな顔を向けてきた。

「いいって」

「でも……」

「誘ったのは、俺だし」

「うぅ。でも……」

　そう言って、困ったように俺を見上げてた梨子の体が、突然ガクッと傾いた。

　同時に「ぅわっ？！」って声もあがって、右腕を掴まれると

「っと！」

　俺は咄嗟に右足に力を入れ、体勢を保った。

　どうやら、店の前にあった階段に気付かず、踏み外したらしい。

「だ、大丈夫？！」
　
「う、うん……大丈夫。アハハ……。ごめんね」

　そう言いながら、ふと見上げてきた苦笑いする顔があまりに近くて

「っ！」

　俺は今朝見た夢を思い出して、ビクッ！　と体を固くした。

　お、思い出すな、俺！

　慌てて梨子から顔を逸らし、夢を打ち消そうとしてると、密着する梨子からフワッと甘い香りがした。

　それと同時に、右腕を掴む細い指の感触を意識して、体温が上がるのを感じてると

「痛くなかった？！　ゴメンね思いっきり掴んじゃって……！」

　梨子は俺の腕から指を離すと、掴んでた辺りを擦ってきた。

「！」

　梨子には何でもないだろうその行為は、女の子との触れ合いに慣れてない俺にはゾクリとするもので、その軽いスキンシップだけで、全身がカァァ！　と熱くなった。

　い、いやいや、俺……！

　これぐらいのことで、何動揺してんだ……！