初めて聴く曲だった。　

　確か……『子犬のワルツ』とかって言ってたな……。

　うん……確かに、子犬のじゃれる姿が目に浮かぶような可愛らしい曲だな。

　優雅さに緩急が混ざって進んでいく曲を前に、ただ立ち尽くしてる俺の目には、楽しそうにピアノを弾く梨子が映ってた。

　その姿は、いつもの能天気でユルユルした梨子とは違ってた。　

　目が輝いてて、ピアノを弾くのが「本当に好きで、好きで堪らない！」っていう、眩しいくらい、いい顔だった。　



　隣りからした、拍手の音でハッとした。

　……。

　え？　

　もう、終わったのか……？！

　あっと言う間に止んだピアノの音に、物足りなさを感じてると

「梨子ちゃん、とってもお上手だわぁ。ねぇ、トランクスちゃん？」

　おばあちゃんの共感を求める声で、意識を引き戻され

「え……！？　あぁ、そうだね……」

　俺は動揺を隠すように、短い返事をした。

　いや、言葉が浮かばなかったって言う方が正しいかもしれない。

　ピアノを弾き終え、ブラからも拍手を受ける梨子は、ヘラッとしたいつもの笑顔を浮かべてる。

　そんな梨子を見る俺の目は、すっかり変わってた。

　明るいピアノの音や、優雅に楽しそうにピアノを弾く梨子の姿が、目や耳、頭、そして胸に強く残って離れない。

　聴き惚れてた……。

　ん、見惚れてた？

　……その両方か？

　そう思うと、急に身体が熱くなってきた。

「天才」

　真琴の言ってた言葉が、頭に浮かんだ。