「はぁ……！　こんな綺麗な音楽を聴きながらお茶が飲めるなんて贅沢だなぁ」

「本当……。とても優雅な気持ちになりますね」

　チチさんとビーデルさんから漏れた感嘆の声に

「でしょ？　こうして梨子ちゃんのピアノを聴きながらお茶をするのが最近の楽しみなのよ！」

　母さんは得意げな笑みを浮かべた。　

　ギターを弾きながら唄う彼女。

　はにかみながらも楽しそうに唄うその姿も魅力的だったが、いま目の前でピアノを奏でる梨子さんはまるで天使のようで、俺はすっかりその姿に見惚れていた。

　柔らかい表情と軽やかで優雅な手の動き。

　ギターを弾いてる時とはまた違う、落ち着いた雰囲気。

　ピアノに向かう彼女の変わりように、俺は目が離せなかった。

　梨子さんが紡ぐ一音一音。

　そのピアノから音は丁寧に織り上げられ、華やかな世界を生み出していく。

　華麗で優雅。

　初めて聴く繊細なピアノの演奏に、心が震えた。

「トランクス、あんたも聴きに来なさい！」

　と、強引に誘われた席だったが、俺は誘ってくれた母さんに感謝した。

　俺の過ごした世界にはなかった音。

　人造人間とセルを倒し平和になったが、まだラジオやテレビから流れる音楽に触れることが精一杯で、音楽の生演奏に触れる機会は残念ながら俺にはなかった。

　いや――。

　そもそも、ピアノの演奏を聴こうと思わなかったかもしれない。

　こうして、ピアノという楽器の演奏を聴いているのは、きっと梨子さんが弾いてるからだ。

「天才ピアニスト」