が、しかし。　

　レストランの入り口で、俺をジロッと見てきた真琴さんに気付いた梨子さんが、また、不思議そうな顔で俺を見てきた。

　真琴さんと何かあったのか。

　そう尋ねてきた梨子さんに、昨夜の話しなど出来るはずもなく、何もないと言って誤魔化すと、梨子さんの顔は段々と曇っていった。

　数週間彼女を見ていて分かったことだが、彼女は気持ちが顔に出やすいタイプだ。

　だから、俺の言動が彼女の気持ちを曇らせたのかと思うと、慌てて「どうかしましたか？」と尋ねていた。

　しかし、梨子さんは何でもないと、いつもの笑顔を俺に向けると、皿の上のトマトに、ぷすっとフォークを刺した。

　その作ったような笑顔を気にしながら、朝食を食べ進めていると、梨子さんから寝坊した原因を聞かれ、動揺してしまった。

　さすがに

　梨子さんの入浴を覗こうとしていた。

　という誤解を、梨子さんもしていないか気になって……。

　など言える筈もなく、読書をして過ごしていたと答えると、次は本のタイトルを聞かれた。

　眠れない夜を、読書をしてやり過ごしていたのは本当なので、読んでいた本のタイトル『武士道』の名前を出すと、梨子さんはあからさまにガッカリした顔をした。

　真琴さんから、梨子さんはこの本に興味がないということは聞いてはいたが、これ程あからさまにガッカリされるとは思わず、可笑しくて口元が緩みそうになった。