彼女と顔を合わせづらい……。

　俺は天井を見上げると、重い溜息を吐いた。

　軽蔑したような、無表情な顔で俺たちに水をかけた真琴さんを思い出すと、胸の中に苦さが広がる。

　真琴さんは、俺たちが風呂を覗こうとしていたと誤解してるんだろうな……。

　その誤解を、梨子さんもしてるのだろうか……。

　そう思うと、梨子さんに会うのが躊躇われた。　

　どうする、俺……。

　チラリと時計を確認して、自問する。

　今、レストランへ行けば、梨子さんと顔を合わせることになる。

　気不味さか、彼女の笑顔か……。

　その二つを天秤にかけると、心は簡単に彼女の笑顔の方へと傾き、俺は当然のようにレストランへと向かっていた。

　俺は彼女の入浴を覗こうとしていたわけじゃない！　歌を聴いてただけだ！

　レストランへと続く廊下を歩きながら、心の中で反論してると

「おはようございます！」

　と、後ろから声を掛けられ、心臓がギクッ！　と音を立てた。

　その声に、らしくもなく、ビクビクと振り返ると、そこにはいつも通りの、可愛い笑顔を浮かべる梨子さんが立っていた。

　その笑顔に

　どうやら、昨夜のことは知らないらしい……。

　そう直感して、ホッと胸を撫で下ろしていると、梨子さんが不思議そうな顔で俺を見ていた。

　気になったらしく、一つ二つ質問してきた梨子さんに「寝坊をした」と答えると、梨子さんは納得したらしく、何とかその場はやり過ごせた。