「ねぇ、トランクス。あんた梨子ちゃんのこと好きなんでしょ？」

　ニヤニヤと笑う母さんの顔を思い出して、思わず溜息が出た。

「有り得ない」と言って否定はしたが、その後の夕食の席で、母さんは梨子さんたちに色々と……好きな男性のタイプなんかを聞き始め、明らかに俺に揺さぶりを掛けてきた。

　平然を装ったつもりだったが、動揺していたことに気付かれただろうか……？

　もし、気付かれていたとしたら……。

　また、あのにんまりとした楽しそうな笑顔で、何を言われるか分からない……。

　そのことを思うと憂鬱になった。

　これからは、梨子さんへの気持ちを悟られないように、細心の注意を払わなければ……！

　強く自分に言い聞かせてから

　いや……。

　いっそのこと、この気持ちは消し去ってしまった方がいいのかもしれない……。

　そう思ったが、それはもう簡単なことではないような気がした。

　部屋のベッドに腰かけると、母さんの質問に答える梨子さんを思い出す。

　好きなタイプは、悟飯さん。

　結婚するなら、クリリンさん。

　初恋の相手は、真琴さんのお兄さん。

　彼女の口から出た、リアルな名前と存在に、溜息が出ると共に、更に憂鬱な気分になった。

　特に、彼女から五年もの間想われていたという「真琴さんの兄」という存在のことを思うと、胸がグッと苦しくなる。

　そして、彼女が父さんのことを「カッコイイ」と言ったことにも、複雑な感情が湧いた。