梨子はそう言うと、黒と白の鍵盤を弾いてみせた。

　初めて触るピアノに緊張してるのか、それともすぐ隣りに座る梨子のせいなのか……。

「ああ」って答える声が、裏返りそうになって

　なに緊張してんだよ、俺！

　自分にツッコんでから、梨子が弾いたように、ピアノを鳴らしてみた。

　右手の人差し指と中指。

　この二本の指で抑えた鍵盤は、意外と重くて驚いた。

　梨子の細い指が、この鍵盤の上をいつも流れるように動いてることに、軽くショックを受けてると

「うん、そんな感じ！」

　梨子はパッと嬉しそうに笑った。

　たった三つの鍵盤を鳴らす。

　そんな単純なことをしただけなのに、梨子に笑顔を向けられ、顔が緩みそうになった。

　慌てて、すぐに顔の筋肉に力を入れて耐えてると

「じゃあ、合図したらトランクス君はいまの音お願いね。それじゃ、いくよー」

　梨子は鍵盤の上に指をのせると、軽やかにピアノを弾き始めた。

　楽譜も見ずに、俺たちの地球の曲を演奏する梨子。

　そんな梨子に感心しながら、俺は梨子に言われた通り、三つの鍵盤を弾くので精一杯だった。



「どうだった？」

　顔を覗き込んできた梨子にドキリとしながら

「っ、それはこっちが聞きたいよ」

　肩をすぼめると

「よかったよ！　ピアノ弾くの初めてだって言ってたけど、音がちゃんと響いてたし」

　満足そうに、ニコニコする顔に、胸の辺りが熱くなった。