「トランクスさんの未来の世界って、どんなところだったんですか？」

　突然、梨子さんからされた質問に、俺は何を聞かれたのか一瞬分からなかった。

　未来の世界がどんなところ「だったんですか？」。

　梨子さんが聞いてきたことを反芻して、未来の世界で起こったことを聞かれたのだと理解した。

　未来の世界で起こったこと――。

　そう思った途端、俺の頭の中に、あの悲惨な未来の世界が甦った。

　いま、目の前に見える景色からは想像も出来ない、地獄のような世界が――。

　

　人造人間が現れたのは、俺が産まれてすぐのことだ。

　すでに悟空さんは心臓病で亡くなっていて、父さんに悟飯さん、そして地球の戦士たちが人造人間に立ち向かった。

　しかし、圧倒的な力を持った二人の人造人間に力及ばず、悟飯さん以外の戦士はみんな散っていった。

　戦う人間がいなくなった地球は、人造人間が支配する恐怖で満ちた世界となり、毎日どこかの街や村が破壊され、たくさんの人の命が消えた。

　毎日ラジオから流れてくる人造人間の情報に、俺は恐怖と悔しさを滲ませることしか出来なかった。

　だが、そんな俺の前に悟飯さんが現れた。

　悟飯さんは、人造人間に仲間たちがやられてから、一人血の滲むような修行に励み、人造人間たちと戦う機会を窺っていた。

　初めて悟飯さんに会った時のことを、俺は今でも鮮明に覚えている。

　澄んだ黒くて優しい目、鍛えられた逞しい身体。

　父親や年長の同性が周りにいなかった俺にとって、悟飯さんはすぐに憧れの存在となった。