レジで会計を済ませ、楽器店を出ようとすると、何となく梨子さんが名残り惜しそうに店内を見ているのに気付いた。

「せっかく来ましたし、見ていきましょうか」

　そう言うと

「いいんですか？」

　茶色い大きな瞳が、パッと明るく輝いた。

「ええ、もちろん」

　可愛らしい反応に頷くと、梨子さんに嬉しそうに「ありがとうございます！」と微笑まれ、胸が熱くなった。

　彼女に笑顔を向けられた幸せと、目的を果たし、終わるだろうと思っていた二人での時間が伸びたことに、頬の辺りが自然と緩んだ。

　嬉しい流れに浮足立ち始めていると

「ピアノ、見ていいですか？」

　わくわくしたような顔が覗き込んできて、俺は自分のやましい気持ちに気付かれないように

「ええ。いいですよ」

　意識して笑顔を作った。



　ピアノ売り場には、黒く光沢のあるピアノに木目調のピアノ、そして白いピアノが数十台、隣りとの間隔がほぼない状態で置かれている。

　ピアノには、それぞれメーカーの社名とロゴマークが記されていて、ピアノメーカーが数社あるというのが分かった。

　その中には、俺にも聞き覚えのあるメーカーのピアノも置かれていた。

「ピアノにも色々あるんですね」

　初めて見たピアノの売り場に感心していると、梨子さんがピアノにはグランドピアノ、アップライトピアノ、電子ピアノ、シンセサイザーというものがあるのだと、それぞれのピアノを見ながら教えてくれた。

「ここは置いてる数がすごく多いです！　私がいつも行ってるお店はこんなにないから」