もし、そんな状態の梨子さんを見たら、冷静でいられないだろうな……。

　さっき、ピアノに突っ伏して眠る彼女を見ただけで、慌てた自分を思い返していると、腕に抱えている梨子さんが、モゾッと動いた。

　寝返りを打つように動いた梨子さんは、枕に顔を埋めるように、俺の胸に顔をピタリと寄せると、左手で俺の胸のあたりをキュッと小さく掴んだ。

　！？

　そんな彼女の無意識な行動に焦って、思わずピタリと足を止めると、半歩程前を行く真琴さんが、不思議そうな顔でこっちを振り返った。

　俺にピタリとくっつく梨子さんを見て、状況を理解した真琴さんは、俺の顔を一瞥してから、再び歩きはじめた。

　っ！？

　目は口程に……とでも言うように、何か言いたげな黒い瞳にギクリ。としつつ、足を早め真琴さんの隣りに並ぶと
　
「す、すみません……」

　無意識に、謝罪の言葉が口から出ていた。

「わかりやすい」

　母さんにそう言われたこともあり、やはり真琴さんにも、俺の気持ちは知みられてるのかもしれない……。

　そう思うと、この状況を少しでも嬉しく思ってしまったことへの「すみません」だった。

　しばらくの間、黙って廊下を歩いていると

「トランクスさんて、ホント正直ですよね」
　
　感心しているのか、馬鹿にされているのか……。

　真琴さんの、淡々としたいつもの口調に「え……？」と、その言葉の真意を聞き返していた。

「いい意味で、ですよ。私は嫌いじゃないです」