余計な発言で演奏会を中断させた張本人をチラッと見ると、居心地の悪そうな顔をしていた。

　言った後、驚く周囲の反応に不思議そうな顔をしてたから、梨子が「ピアニストにならない」ってことをみんなが知ってると思ってたんだろう。

　迂闊なヤツだな。

　そう思いつつも、やっと梨子本人の口からそのことを聞けたので「よくやった」と心の中で密かにトランクスを褒めてやった。

　私が梨子がピアニストになることを諦めたんだろうと思いはじめたのは、高二になってすぐの頃だ。

　中学を卒業するまでは、全国区から地方のコンクールまで、たくさんのコンクールに出場してたのに、高校に入学した途端、パタリと出る回数が減った。

　学校の方針か？

　最初はそう思ってたが、梨子と同じクラスのヤツ等は出場してたりする。

　聞けば、むしろ学校側はコンクールに出場することを奨励しているらしいので、おかしいと思い母に尋ねると、原因が梨子の母親だということが分かった。

　それを知って、私は呆れと怒りを覚えた。

　せっかくの梨子の才能を潰そうとしてることに、ただただムカついた。

　梨子の出自なんて、気にすることないだろ！

　プロのピアニストになれるかなんて分からないんだから、挑戦くらいさせてやればいいだろ！

　そう思った。

　でも。

　梨子はこのことを私に話さなかった。

　何で話してくれないのか。

　それを考えると、本当は夢を諦めたくないんじゃないかと思えて仕方なかった。