「ピアニストにはならない」

　そうだろうなってことに、薄々気付いてはいた。

　でも。

　何でそれを私より先にトランクスに言うんだ？！

　今までは、何かあればすぐに私に話してただろ……！？

　そこにちょっとムカついた。

　トランクスに対して妙な嫉妬心を抱きながら

「ピアニストになんないならどうすんの？」

　素っ気なく投げかけると

「え……？　わ、分かんないけど……とりあえず、音大に行ってから考えようかなって……」

　梨子は気不味そうに返してきた。

　そんな梨子に少し拍子抜けした。

　梨子のことだから、予想外のことを言い出すかと思ってたけど、意外にもまともな答えが返ってきて

「あ、そ。じゃあ、音大には行くんだ」

　安堵してると

「うん。音大には……」

　私の反応に安心したのか、梨子はホッとしたような顔で頷いた。

　そんな私たちのやり取りを見て

「そう……梨子ちゃん、ピアニストにはならないのね」

　ブルマさんは昼間の話しを思い出したようで、納得した顔をしたけど

「あらぁ。梨子ちゃんならピアニストになれそうなのに……残念ねぇ」

　ブルマさんのお母さんは、珍しく曇った表情になった。

　すると

「でも、ピアノをやめるわけじゃないので！　音楽とか幼稚園の先生とか……ピアノに触れる仕事は他にもありますし！」

　梨子が明るい調子で言うと

「まぁ、先生？　それは素敵ねぇ！」

　ブルマさんのお母さんはいつもの笑顔で、ポンと両手を合わせた。