「話しを聞いてあげたらどうだい？」

　祖父の目は、そう言いたげに俺を見つめているが、果たして梨子さんが俺に悩みを話してくれるのだろうか？

　疑問に思った。

　ほぼ毎朝顔を合わせているのに、まったくそんな素振りを見せなかった彼女が、俺に悩みを話してくれるような気がしない……。

　それに、こういうことは自分には向いていない気がする。

　俺より適任者がいるはずだ。

　例えば、母さん。

　母さんは梨子さんと同じ女性だし、人生経験豊富だ。

　的確なアドバイスを梨子さんにしてくれるような気がする。

　それからトランクス。

　トランクスは年齢も近いし、何と言っても梨子さんがトランクスの部屋に行くなどしていて仲も良い……。

　トランクスの方が俺よりよっぽど話しがしやすいはずだ。

　ふと湧いた嫉妬心を隠し

「俺では役不足かな……。いいアドバイスも出来そうにないですし」

　はは。と弱く笑うと
　
「なぁに。アドバイスなどしなくても大丈夫だよ。話しを聞いてもらうだけで、話している方は気持ちが楽になるもんさ。それに……もし悩んでいたとしても、その答えを本人はもう分かっていたりするからね」

　祖父はそう言って優しく微笑んだ。

　その言葉に

「話しを聞くことなら、俺にも出来そうです」

　そう答えると

「これでまた、みんな梨子ちゃんと遊んでもらえそうだ。じゃあトランクス君、よろしく頼んだよ」

　肩に飛び乗って来た黒い子猫を乗せたまま、祖父はマグカップを手に持つと、中庭の入口の方へ歩いて行った。