バツ悪そうな顔を私に向けてきた。

　最初から、素直に「聴いて」って言えばいいんだよ。

　心の中で文句を言いながら

「いいよ。聴くよ。もし、私らの地球に帰った時に、あんたのピアノが下手くそになってて、コンクールでいい成績残せなかったら責任感じるし」

　半分本気。

　半分冗談でそう言うと

「……うん」

　て、歯切れの悪い返事が返ってきて「あ」と、気になってたことを思い出した。

「そう言えばあんた、浜松のコンクールにエントリーしなかったんだって？」

　シュウマイを箸でつまんで、ふと梨子を見ると、ギクリとしたような顔がそこにあった。

　三年ごとに「楽器の街」静岡県浜松市で行われるピアノコンクール。

　国際的なピアノコンクールで、世界中から若手ピアニストたちが集まってくるらしい。

　このコンクールを舞台にした小説が書かれたりして、日本で行われてるピアノコンクールの中でも有名なコンクールだと、母さんが言ってた。

　そのコンクールが今年開催されるってのに、梨子はエントリーしなかったそうだ。

　何でエントリーしなかったのか母さんに理由を聞いたけど、はぐらかされて結局理由を知ることが出来なかった。

　だから今

「出たいって言ってなかったっけ？　何でエントリーしなかったの？」

　梨子に直接聞くと「え……」と、梨子も明らかに答えを探す顔をした。

　……やっぱり、そうか。

　私は心の中で溜息を吐くと

「おばさんに反対されたのか？」

　薄々気付いてたことを口にしてた。