梨子から

　本当の親を知らない。

　しかも、置き去りにされたなんて話しを聞いて、俺はショックだった。

　きっと、あの時あの場所にいた全員が俺と同じだったと思う。

　あの話しを聞いて、みんなが梨子に同情したはずだ。

　そして、いままでみたいに、梨子をクリアな目で見ることが出来なくなるはずだった。

　でも。

　俺が心配したようなことにはならなかった。

　不思議だと思ってたけど、それはきっと、梨子の自然な笑顔のせいなんだって、いま梨子の笑顔を見てそう思った。

　梨子がいつもと変わらず……いや、むしろ、話したことでスッキリしたような、自然で明るい笑顔を次の日も振りまいていたからだ。

　そんな梨子を見て、気にしてる方がバカみたいに思えてきたんだろう。

　みんな梨子に対して、何も聞かなかったってくらい、いままで通りに接してた。

　俺は、笑顔の力を思い知った気がした。

　そして、こうしていまも梨子の笑顔を見てるうちに、俺の波立ってた心は、いつの間にか落ち着きを取り戻してた。



　
　一時間くらい都の空を飛んで、俺たちは家に帰って来た。

　庭に下りようとしたところで、正面の空から俺とそっくりな気が近付いてくるのを感じた。

「お兄ちゃん！」

「トランクス……梨子さん？！」

　俺が抱えてる梨子を見た瞬間、穏やかだったお兄ちゃんの気が微妙にひずんで、俺はこの状況が何だかマズイことに気付いた。