ダメだ……。やる気が起きない。

　机の上に広げたノートとテキストに大きな溜息を浴びせかけ、椅子から立ち上がった。

　足は自然とベッドの方に向いていて、そこに寝転がりぼんやり天井を眺めてると、昼間のバカな会話を思い出して、また溜息が出た。

　……何であんな嘘ついたんだ、俺！

　マイちゃんとは、まだキスまでしかしてないだろ！！

　それも一回！！

　見栄なんて張らずに、正直に「やったことない」って言えばよかっただろ……！

　何でしたこともないことペラペラしゃべったんだよ！！

　ああ、俺のバカ！！

　って言うか……。

　昼間っからあんな話しするなよな！

　そもそも、あいつがあんな話題を持ち出してくるから、俺が嘘付くはめになったんじゃないか！！
　
　クソ―……。

　自分のやらかしたことを人のせいにして、心の中でブツブツ文句を言いながら、昼間の話しを思い出して悶々としてると、部屋のドアをノックする音がした。

　夜の九時過ぎ。
　
　この時間に俺の部屋に来るヤツなんて、一人しかいない。

「はい」

　返事をしてから、ドアを叩いた小さな気を確認してドアを開けると

「あ、トランクス君……。いま、大丈夫？」

　梨子がいつもとは違い、窺うように俺の顔を見上げてた。

　その顔に、胸がザワザワするのを何とか誤魔化しながら

「……別に大丈夫だけど……」

　って答えると、梨子は表情を緩めて

「よかったー……」

　って嬉しそうに呟き

「あのね、お願いがあるの！」

　茶色い大きな目を輝かせた。