と狼狽えながら

「その……梨子さんに、用がありまして……」

　私の隣りに並ぶ梨子へチラッと視線を動かした。

　あ。何だか面倒な場面に居合わせることになったな……と思いながら

「梨子に？　何ですか？」

　二人の間を取り持つように尋ねると

「あの、ギターをお返ししたくて……」

　トランクスさんは、申し訳なさそうに視線を足元に落とした。

　それを聞いて

「えっ？！　まだ返してなかったんですか？！」

　私が驚いた。

　あの日から一週間以上経つってのに、まだ返してなかったのかよ……。

　それだけ、梨子に近付くことを遠慮してるのかと思うと、何だか可哀想に思えて

「じゃあ、いま返してもらったら」

　多分、梨子も「返して」とトランクスさんに言いにくかっただろうことを察して、ギターを返却してもらうよう促すと、隣りの梨子は「う、うん」と遠慮がちに頷いた。

　お互いが醸し出すよそよそしい雰囲気に、少しイラッとしてると

「そ、それじゃあ、取ってきます！　少し待ってて下さい！」

　トランクスさんはそう言って、自分の部屋の方へ走って行ってしまった。　

　その後ろ姿を見つめながら

「いつまでこの気まずさ続くの？」

　ぼやくように言うと、梨子からは「だ、だって……」と言う、いつもの言葉しか返ってこなかった。


「すみません……返すのがかなり遅くなってしまって」

「あ、いえ……」

「あ、あの。それじゃあ、俺はこれで……。おやすみなさい……」