「まぁ……お兄ちゃんだけが悪いんじゃないけどさ。梨子があからさま過ぎるし、それにママも変に気をまわすから、余計空気が微妙になっちゃってるんだよね」

　ハッキリ言うと、お兄ちゃんの笑顔は曖昧なものに変わって

「いや。母さんやトランクスにまで気を遣わせることになって……全部俺のせいだよ」

　弱々しい声でそう言った。

　そんな、いつもの頼もしさと覇気がすっかりなくなってるお兄ちゃんに

「ったく。キスしたぐらいで、何でこんなふうになっちゃうんだよ」

　文句を言うと、お兄ちゃんの顔は今度はギョっとした表情へと変わった。

　驚いたように目を大きくして、俺を見つめるお兄ちゃんに

「あ。別に梨子から聞いたわけじゃないよ。ま、何ていうか……勘ってヤツ？」

　本当は梨子にカマかけて知ったようなもんだけど、自分は勘が鋭いんだ。ってことを装って言うと

「そ、そうか。はは……参ったな」

　お兄ちゃんは笑顔を引き攣らせると、俺に梨子とのことを知られてばつ悪く思ったのか

「せっかくの食事の時間を台無しにするのも悪いから、明日から俺は食事の時間を遅らせることにするよ」

　そう言って、赤くなった顔を歪めた。

　そんなお兄ちゃんに

「そんなことしたら不自然じゃん。余計気まずくなるからやめてよ」
　
　それこそあからさま過ぎる。

　そう思って即却下すると

「いや、でも……。俺は梨子さんの近くに居ない方がいい」

　もう一人の俺は、哀しそうな笑顔を浮かべた。

　それに何だか腹が立って