今までなら、お兄ちゃんと梨子はよく同じテーブルに座って食事をしてたのに、今夜も二人は離れた場所でそれぞれ夕食を食べてる。
　
　そして、俺と同じように理由を知っているだろうママが、それに気付かないフリをして、わざとらしく話す大きな声がレストランに響いてた。

　そんな、ぎこちなさが漂うレストランの雰囲気に耐えられないのか、お兄ちゃんは食事が終わると早々にレストランを出て行くようになっていた。

　そして、この雰囲気に地味に耐えられなくっていた俺も、この日お兄ちゃんがレストランを出ていくと、すぐ後を追うようにレストランを出た。

　少し前を歩くお兄ちゃんに「ねぇ」って声を掛けると、お兄ちゃんは立ち止まって後ろを振り返り

「トランクス？　どうかしたのか？」

　って不思議そうに聞いてきた。

　そんなもう一人の自分に呆れて

「どうかしたのか？　じゃないよ。レストランのあの雰囲気。どうにかしてよ」

　軽く睨みながら文句を言うと、お兄ちゃんの気が少し乱れた。

　あんな雰囲気になった原因は、明らかにお兄ちゃんと梨子のせいだ。

　そして、その原因は二人がキスしたせいだ！

　しかも。

　そのキスは梨子の動揺から見て、思いもよらないコトだったに違いない。

　原因の張本人だろうお兄ちゃんを責めるように睨み続けてると、お兄ちゃんは俺が何を言いたいのか察したみたいで「ああ……」って、息を吐くように声を漏らした。

「悪いな、あんな雰囲気にしてしまって……」

　そう言って、哀しそうな笑顔を浮かべるお兄ちゃんに