「俺が焼くよ」

　トング片手に、肉や野菜を焼く梨子に、トングを渡せって感じで、手を出した。

　そしたら

「いいよ。私が焼くから、トランクス君は食べててよ」

　コンロの上の肉を気にしつつ、梨子はキョトンとした顔を俺に向けた。

「さっきから焼いてばっかで、食べてないだろ。最後なんだから、いっぱい食べろって。この肉最高級の肉なんだから、食べとかないと損するぞ」

　俺は梨子の手から、半ば無理矢理トングを奪い、コンロの肉を裏返した。

　キョトンとしてた梨子だったけど、俺の言った「最後」って言葉が効いたのか、梨子は少し複雑な表情をしてから

「ありがと。じゃあ、お言葉に甘えて、今から食べる方に徹するね！」

　顔を輝かせ笑うと、皿を取りにテーブルに向かった。

　そんな俺たちのやり取りを見てたらしく

「あんた、気が利くじゃない」

　ママは俺に近寄って来て、何か言いたそうに、にんまり目を細めてから

「そうよね。最後なんだから、たくさん食べて、梨子ちゃんには満足して帰ってもらわなくちゃ」

　次には寂しそうに、テーブルの上の、皿と箸を手に取る梨子を見つめた。

　ママの言葉に、無言でコンロの上の野菜を裏返してると

「あんたもよ、トランクス。いいわね。最後なんだから、満足のいく夜にしなさいよ」

　ママは意味深な笑顔を向け

「さて。私も今日は満足するまで飲むわよー」

　軽い足取りで、ビールサーバーの方へ歩いて行ってしまった。

　ママの姿を見送り、コンロに視線を落とすと