「妙な緊張感」という言葉に共感し、苦笑いを滲ませてると、ふと視線を感じ、そちらに目を向けた。　

　見ると、梨子さんが、じっと俺の顔を見つめていて、その視線に胸がドキリと跳ねた。

　少し前まで、俺を避けていた梨子さんが、どうして、俺の顔をじっと見つめてくるのか……？

　困惑したが、見つめてくる茶色の瞳からは「嫌悪」のようなものは感じられず、その視線が、ネガティブな要素を含んでないことに、一先ず胸を撫で下ろした。

　だが、視線を合わせる勇気はなく

「すみません。俺の方から父さんに交代を言えばよかったですね」

　誤魔化すようにそう言って、真琴さんの方に視線を戻すと

「ああ、別に……。っていうより、トランクスさんは大丈夫でした？　何かされてたら悪いなぁとは思ったんですけど……」

　真琴さんは、申し訳なさそうに眉を下げた。

　そんな真琴さんに

「特に何かしていたわけでもなかったので、大丈夫ですよ。気にしないで下さい」
　
　笑顔で答えてから、俺はダイニングテーブルの方に足を進めた。

　……身体が熱いな。

　さっきの、梨子さんからの視線に動揺している自分を宥めながら、ダイニングチェアに腰を下ろし、小さく息を吐いた。

　梨子さんに振られて、もうすぐ一ヵ月が経つ。

　この一ヵ月、俺は少しでも、彼女への想いを消そうと努力してきた。

　しかし、その努力が全く報われてないことを、たった今実感し「恋」という感情が、そう易々と消せるものではないということを知った。