研究室を出て、自室へと向かう途中

『そう言えば、ベジータって、ああ見えて、愛情表現が強引な時があるのよね～』

　さっき母さんが言った言葉を思い出し、複雑な気分になった。

　聞いた時は、まず、父さんと母さんの夫婦としての面を知ったことに、息子として照れてしまったのだが、次には、気持ちが抑えきれず、梨子さんにキスをしてしまった、あの夜のことを思い出していた。

　あれは……「強引」以外の何ものでもないよな……？

　まだ、鮮明に思い出されるあの夜のこと。

　あれこそ、母さんの言う「愛情表現が強引」というものならば、俺はまさに、父さんのそういうところを受け継いでいるのかもしれない。

　未来の世界で、父さんを知らずに生きてきた俺としては、父さんと似ている部分があることを知れたのは、嬉しいことだし感慨深い。

　だが、それが「愛情表現の強引さ」というのは、ますます気分を複雑にさせた。

　なぜなら、母さんの表情や口ぶりから、父さんはその強引さを上手く使えているんだろうが、俺は全くそうはなってないからだ。

　むしろ、強引さが仇となって、梨子さんとの関係に溝を作ってしまった。

「愛情表現が強引」というのは、きっと、相手がこちらに好意があってこそ、有利に働くんだろう。

　俺は、力だけじゃなく、男としても父さんには敵わないんだと思うと、父さんへの尊敬の念は、より一層強くなった。

　父さん譲りの「強引さ」を、俺も発揮出来る時がくるんだろうか……？

　その時、その相手とは一体誰なんだろうか。

　廊下を歩きながら、ぼんやり考えていた。