部屋の窓から外を見ると、空には半分欠けた白い月が浮かんでいた。

　その月を見ていると、自分も同じように、何かが欠けているような、満たされていないような感覚に陥り、思わず目を逸らした。

　満たされないもの。

　それが何かはハッキリ解っている……。

　梨子さんと距離をとるようになって、まだ一週間が過ぎたばかり。

　たった一週間で、自分の心がこんな状態になるなんて思ってもみなかった。

　彼女に逢えないことが、これほどストレスになるなんて……。

　こんなふうになるなら、いっそコントン都に戻りたい……。

　その方が、彼女の存在を感じなくて済む――。

　もう一度時の界王神様に掛け合って、コントン都に戻してもらうように頼んでみようか……。

　短く深い溜息を吐くと、俺は塞がりそうな心を少しでも解そうと、部屋を出た。

　夜風に当たって、少し気分を変えよう。

　そう思い、夜の庭を歩くことにした。

　漆黒の空を映す池の傍を過ぎ、木々が生い茂る森に入ると、途端に、濃い土の匂いに包まれ、当たり前にある大地の存在を強く感じた。
　
　ああ。何だか落ち着くな……。

　大地の匂いを鼻から目一杯吸い込み、目を閉じて、大地の存在と、そこからエネルギーを吸収している木々の揺らぎに耳を澄ませていると、微かに自然の音ではない音が流れてきた。

　この音は……？

　もう一度耳を澄まして、流れてくる音に集中すると、それは間違いなくピアノの音だった。

　梨子さん？！

　今まさに、彼女が庭でピアノを弾いてることを知った俺は、次の行動をどうするか自問していた。