そして、暗い曲としても有名。

『幻想曲ソナタ』っていうベートーヴェン自身がつけた曲名があるんだけど、ある評論家の人の発言で、『月光』って曲名で呼ばれるようになったんだって。

　この話しを聞いて、ベートーヴェンが少し気の毒な感じがするのは私だけかな？

　そして、気の毒といえば。

　実はこの曲、ベートーヴェンが想いを寄せていた伯爵家のお嬢様に贈った曲なんだって。

　でも、結局身分違いの恋ってことで、その恋は終わっちゃって……。

　だから、この曲の背景を聞いた時

　辛かっただろうな、ベートーヴェン。

　って、ベートヴェンに同情しちゃった。

　私のいまの気持ちは失恋じゃないけど、失恋した時みたいに、暗くて塞ぎ込みたい気持ちは共感出来て、この重たくて暗い『月光　第一楽章』は、いまの私の心を表すのにふさわしい曲だと思った。

　ドロドロと纏わりつくような、黒い泥みたいな感情を込めて弾いてるから、多分学校の先生が聴いたら、すごく嫌な顔するだろうなって思う。

　でも、こんなに負の感情を込めて、いままでピアノを弾いたことがなかったから、それはすごく新鮮に感じた。

　音を出す度に自分の中の負の感情が表現されるのが、何だかすごく気持ち良い。

　時々、コンクールとかですごくくどい演奏をする人がいるけど、今日はその人のスタイルにすっごく共感出来た。

『月光　第一楽章』を弾き終わる頃には、少しモヤモヤイライラしてた気持ちも落ち着いてきて、続けてショパンの『幻想即興曲』、ラフマニノフの『幻想的小品集　第一曲　悲歌』を情感たっぷりに弾きあげてた。