動揺を隠し、何とか平静を装った。

　彼女に手を差し伸べ立ち上がらせ、痛めた足を見たりしたが、あの怯えた顔がチラつき、罪悪感から胸が潰れそうになった。　

　俺の気に気付いたトランクスがやって来ると、俺は梨子さんをトランクスに任せ、街を見回るという理由で梨子さんから離れた。

　離れた方がいい……。

　そう強く思った。

　……俺は、さっき梨子さんを襲っていたヤツ等と同じだと思ったからだ。

　いや、違う。

　俺に比べれば、ヤツ等はまだマシかもしれない……。

　彼女の唇を奪うという、身勝手な行為を犯してしまった俺に比べれば……。



「お兄ちゃん」

　呼ばれて振り返ると、そこには呆れたような顔をしたトランクスが立っていた。

　聞きたいことがある。

　そう言いたげな顔は

「梨子のこと避けてるってホント？」

　ストレートに質問をぶつけてきた。
　
　母さんだな……。

　自分で理由を聞き出すことが出来なかったので、トランクスに聞きだすよう頼んだんだろう。

　だが、相手が誰であろうと、梨子さんを避ける理由を言うつもりはない。

「そんなわけないだろ。偶然だよ」

　可笑しそうに笑って答え、その質問を否定した。

　正直に彼女を避ける理由を言って、俺だけ冷たい目で見られるのなら構わない。

　だが、俺が梨子さんを避ける理由を話すということは、梨子さんがヤツ等に襲われていたことを話すことになる。

　それを、俺の口から話すことは出来なかった。