長年、陽を浴び、風雨に晒され続けてきただろう年季の入ったその建物は、龍泉寺の本堂のような趣があり、馴染みのある建物に思えた。

　ただ、決定的な違いは、この建物が龍泉寺の本堂から漂う「静」とは違い「動」の気で満ちた道場という建物だということだろう。

「あ、マコちゃんの声だ」

　回り込み、梨子さんと道場の中を覗くと、そこには男女合わせて八人程の子供たちと、真琴さんの姿があった。

　黒く長い髪を一つに束ね、竹刀を持つ道着姿の真琴さんは「凛とした」という表現が相応しく、真剣な眼で、子供たちの稽古のようすを見つめている。
　
　そして見ながら、相手の目を見て打ち込むことや、声を出すことなど、剣道の基本的な教えを子供たちに伝えていた。

　そんな真琴さんの姿に、俺は、俺に武術を教えてくれた悟飯さんの姿を重ねていた。




「はい！　じゃあ、今日の稽古はここまで」

「「ありがとうございました！」」

　立礼をし顔を上げた途端、子供たちの表情は一気に緩み、それぞれ帰り支度をはじめた。

　そんな子供たちの間を抜け、道場の入口へとやって来た真琴さんは「ごめん。待たせた」そう言って、謝罪の言葉を口にした。

「もう！　連絡くれたら、よかったのに！」

「悪い悪い。急だったもんだからさ」

「急でも、ＬＩＮＥ送るくらい出来るでしょ！　マコちゃんがここにいること、龍斗さんが教えてくれたんだからね」

「ああ、だろうね。龍斗しか知らないはずだから」