「あっ、あの……な、菜奈は？！」

　オロオロしながら尋ねてきた。

「大丈夫です。いまは病室にいるそうですよ」

「そ、そうですか……！」

「さっき梨子さんも来て、病室の方に行かれました」

「そ、そうですか！　梨子ちゃんも……！　そ、それじゃあ、私も行って来ます！」

「ええ、行ってあげてください」

　あの女の夫……孝明とかいう男はトランクスと言葉を交わすなり、慌てて受付の方へ足を進めた。

　だが、すぐに足を止め、こちらに引き返して来ると

「あ、あの！　ベジータさんが菜奈を連れて来て下さったんですよね！　ありがとうございます！！　本当にありがとうございます！！」

　俺に頭を下げ感謝の言葉を繰り返し、受付からそのまま病室へと案内され行ってしまった。

　普段ののんびりとした姿とは打って変わって、あまりにも慌ただしい、冷静さを欠いた男の姿に

「落ち着きのない野郎だ……」

　苦々しい顔で、孝明が去って行った方を見つめていると「……そうですね」と、トランクスも意外だというふうな口ぶりでそう言ってから

「でも、間もなく子供が産まれるとなると、あんなふうに落ち着かなくなってしまうんでしょうね」

　間もなく、父親になるだろう男を祝福するかのように、可笑しそうな口調でそう続けた。

　そんな息子の言葉に、俺はどうだっただろうか？

　ふと、思い返そうとしたが、息子と娘、どちらの時もその経験がないことに思い至ると、少し寂しい気持ちが込み上げてきて

「……帰るぞ」