「あ……」
「あっ……！」

　お互いの声が重なってから、妙な間が流れた。

　表情をつくる間もなく、ビクリとしてる俺に

「いまからお風呂ですか？」

　梨子さんは、俺が抱える着替えを見て、にこりと微笑んだ。

「え、ええ」

　口角を意識して上げ、小さく頷く俺に

「私もいまからなんです」

　梨子さんは笑顔を深め、抱えている着替えを胸に押し当てた。

　その何気ない仕草も可愛いなと思い、少し動揺してた心を和ませていると

「あ、あの……」

　梨子さんが窺うように、上目遣いで俺を見上げてきた。

　その表情にドキリとしながら「は、はい？」と答え、続く言葉を待っていると

「マコちゃんとの稽古、どうでしたか？」

　思わぬことを聞かれ「え？」と漏らしていた。

　じっと俺を見つめ、答えを待つ梨子さんに

「そ、そうですね……。かなり強くなられていて、正直驚きました」

　おそらく、ソファで寝てしまった原因だろう、真琴さんとの剣道の稽古を思い返して答えると、梨子さんは少し寂しそうに「そうですか……」と微笑んでから

「あ……ごめんなさい！　お風呂に行く途中だったのに。じゃあ、私もお風呂行って来ます！」

　いつも通りの笑顔を見せ、廊下を曲がった先にある、菜奈さん夫婦が住む離れの方へ行ってしまった。

　そんな梨子さんの後ろ姿を見送りながら、俺は彼女が見せた寂しそうな笑みに引っ掛かっていた。