夕食後、気まずさから、すぐに部屋へと戻った俺は、続いたままの動揺を紛らわそうと、ノートパソコンを開いていた。

　しかし、パソコンを開いたところで、動揺が治まるわけもなく、むしろ、梨子さんがした行動の意味を追求しそうになり、何度も検索しそうになる指を止めた。

　調べれば、何かしらヒントのようなものは出てくるだろう。

　だが、それが正解とは限らない。

　結局、あのキスの意味は梨子さんにしか解らないのだ。

　ふぅ……。と重い溜息を吐き、俺はパソコン画面の下に表示されている時刻に目を遣った。

　時刻は間もなく、午後八時を迎えようとしている。

　トレーニングが捗っているのか、今日は父さんの帰りが遅い。

　普段なら、何かトラブルに巻き込まれた……いや、トラブルを起こしてるんじゃないかと心配になったりするのだが、今日に限っては、帰りが遅いことにホッとしている自分がいる。

　もし、今日一日父さんが家にいたのなら、この動揺を悟られていたかもしれない……。

　そう思うと、変な汗が出そうになった。

　父さんが、俺が動揺している理由を追求してくることなどないだろう。

　だとしても。俺は一人、居心地悪く過ごしていたに違いない。

「ハァ……」

　何度目か分からない溜息を吐いて

「今日は早めに休もう……」

　独り言ちてから、バスルームへと向かった。

　何となく重い身体を引き摺るように廊下を歩いていると、丁度二階から下りて来た梨子さんに出くわした。