リビングから梨子さんの足音が遠ざかって行くと、俺はよやく目を開き、弾かれるように上体を起こした。

　そして、たったいま起こった出来事に混乱し、口元を右手で覆っていた。

　なっ、何だったんだ……いまのは……？！　
　……。
　……ゆ、夢か……？

　そう思うも、唇に触れた柔らかい感触は確かに残っていて、いま起きたことを思い返すと、全身が途端に熱を持った。

　っな、何で、あんなこと……？！

　梨子さんがした行動の意味が解からず、頭を抱えていると

「あら、おはようございます」

　智子さんが洗濯物を抱え、リビングに入って来た。

　上手く頭の切り替えが出来ず

「あっ……！　おっ、おはようございます！　あ、あの、すっ、すみません！　ソファで寝てしまって……！」

　動揺たっぷりに謝ると

「いいですよ」

　智子さんは、気にしていないというふうに笑みを浮かべてから

「とても気持ち良さそうに寝てらしたから」

　何かを思い出すように、ふふっと小さな笑みを零した。

　その智子さんの顔に、何となく気恥ずかしくなったのもあり、俺はソファから立ち上がると

「ほ、本当にすみませんでした！　へ、部屋に戻ります」

　混乱と気恥ずかしさに追われるように、自室へと引き返した。




　襖を閉めるなり、俺は自分を落ち着かせるように、深く息を吐いた。

　何とか動揺を鎮めようとするも、この動揺は一呼吸くらいでは鎮まりそうにない……。