リビングに入るなり

「母さん！　佳奈さんは？！」

　ソファに座っていたトランクスが立ち上がった。

　不安な表情を向ける我が子に

「佳奈ちゃんなら眠っていたわ……」

　ブルマは安心させるように、弱い笑みで答えた。

　だが、ブルマが下げて来た、手が付けられていない、トレイの上の料理を見て

「佳奈さん……」

　トランクスの表情に、ますます不安が広がった。

「きっと大丈夫よ！」

　そう言えればよかったが、泣き疲れて眠ってしまっただろう佳奈の姿を見て、さすがのブルマも楽観的にはなれず

「精神的にかなり弱ってると思うの……。だから、時々あんたもようすを見に行ってちょうだい。こういう時は、しっかりと支えてあげる人間が必要よ」

　トランクスの目をしっかり見据え、そう伝えた。

　いつになく、真剣な母のようすに、佳奈の状態の危うさを感じたトランクスは「分かった」そう言って深く頷いた。

　大切な人たちを失うことの辛さ。

　その辛さを、トランクスとブルマは痛い程知っている。

　トランクスは、それをたった独りで受け止めることになった佳奈が、あまりにも不憫で痛ましかった。

（何でこんな残酷なことに……！）

　怒りが込み上げてくると同時に、あまりにも理不尽な出来事のせいで、あの天使のような笑顔が、もう見れなくなってしまうのではないか。

　そう思うと、トランクスは怖くなり、居ても立っても居られず、佳奈の部屋へと向かっていた。