「トランクス。夕飯もうすぐ出来るから、佳奈ちゃんを呼んで来てくれない？」

　キッチンから美味しそうな匂いと共に流れてきた、母の声に

「うん、わかった」

　トランクスは作業をしていた手を止めると、ダイニングを出て、佳奈の部屋となった、ゲストルームへ向かった。

　途中、廊下の窓から見えるオレンジ色の空は、藍色によって底の方に追いやられつつあり、夜が近付いていることを告げている。

　西の都の街を見れば、すっかり灯が灯り、夜を迎える準備は万全のようだ。

　そんな、いつもと変わらない、一日の終わりの風景だが、トランクスには、今日という日が特別に感じた。

　それは、いま、向かっている先にいる人物のせいであることは間違いなく、こうして歩みを進める度に、トランクスの心はざわざわと波立った。

　自分とブルマの部屋を通り過ぎ、突き当りの部屋のドアの前で立ち止まると、トランクスは一度、そこで深呼吸をした。

　ただ、部屋の中にいる少女に「夕飯が出来た」。そう声を掛けるだけなのだが、何故か落ち着かない。

　この妙に落ち着かない感じが、佳奈が目を覚ました時から、ずっと続いている。

　この感覚……いや、感情か？　
　一体、何だろうな……。

　トランクスは、自分の心の動きに、密かに首を傾げていた。

　これまで「恋愛」というものに、無縁だった青年に芽生えた初めての感情。

　この感情が、すぐに「恋」という名の感情だと気付かないのは、この青年がこれまで、希薄な人間関係しか築けない環境の中にいたからだろう。