「おはよう、先生」

「おはようございます」

　挨拶を交わすと、メディカは売店のショウケースに視線を向けた。

　朝の時間はまだ種類豊富な、サンドウィッチやベーグルサンドを眺めていると「ふふっ」と小さく笑う声が聞こえてきた。

　不思議そうな顔をショウケースの向こうにいる人物に向けると

「ああ、ゴメンよ。何だか最近、メディカ先生がキレイになったなと思ってねー」

　そう悪戯っぽい笑顔を返された。

　その「お見通しだよ」と言わんばかりの笑顔に、ビクッとしつつ

「そんなことないと思うけど……」

　と、苦笑いを浮かべると、おばさんは嬉しそうに

「ふふふっ！　ま、お相手が誰かは詮索はしないけどね。でも、恋をすると女はキレイになるから」

　にんまりと笑うおばさんに、メディカは頬が染まるのを感じた。
　
「キレイになった」

　ホントにそうだったら嬉しい。

　少しでもキレイになったのなら、彼の隣りにいても許される……。そう思えた。

「……ありがとう、おばさん。お世辞でも嬉しい！」

「え？　お世辞なんかじゃないよ！　私はホントのことを言ってるだけ」

「ふふっ、ありがとう」

　おばさんの言葉で、少し気持ちが晴れたメディカは、いつものお気に入りのベーグルサンドとコーヒーを買うと売店を後にした。

　その姿を見送りながら

「恋は女をキレイにする魔法みたいなもんだからねー。でも、かかってることに自分では気付かないんだよ。まったく、意地が悪い魔法だねぇ……」

　おばさんは眉を寄せつつ、嬉しそうに口角を上げるのだった。