知り合いかしら？　と、隣りにいる顔を窺うと、彼もアッ！　という表情で女性医師を見ていた。

　すれ違いざま

「どうされたんですか？！」

　と、声をかけて来た女性医師に

「ああ、事故に遭いましてね……」

　彼はそう答えると、続けて

「いやぁ、それよりこんなところでお会いするとは……。そうですか、お医者さんだったんですか」

　穏やか……というよりは、温かい目で目の前の若い彼女を見つめている。

　そんな運転手の表情に「一体どういった知り合いなのかしら？」と思う秘書の前では

「はい……そうなんです……」と、答える彼女が「それより、事故に遭われたなんて……！」と、眉を寄せている。

「ははは。まぁ、骨折程度で済みましたから。大したことはありませんよ」

　平気だというふうに笑う運転手に、白衣の彼女が労わるような表情を向けると

「ああ、お仕事中に引き留めてすみません。それでは、しばらくこちらの病院でお世話になりますので、よろしくお願いします」

　運転手は笑顔を向けた。

「はい……。お大事になさって下さい」

　そう言った女性医師に、２人は軽く頭を下げると再び歩き始めた。

　しばらく歩き、病院の玄関を出たところで
　
「彼女ですよ」

　隣りからした声に

「え？」と隣りを見ると

「恋人です。社長の」

　嬉しそうに頬を緩めたその顔に、秘書は思わず「えっ？！！」と言って立ち止まった。

　そんな彼女を振り返り

「可愛らしい方でしょ？」

　そう言って微笑む顔にハッとすると、秘書は動揺しながらも、慌てて少し開いた運転手との距離を縮めるのだった。