目の前に果てしなく広がる海から、穏やかな風が潮の香りを運んで来る。

１０月の末とあって、海水浴客はほとんどおらず、海にはサーフィンを楽しむ人々の姿がチラホラ見えるくらいだ。

白い砂浜と街の境界線となる場所に立ち

「着きましたね。」

そう言ってメディカを見ると、その横顔は微笑みの中に憂いを含んだ様な表情を浮かべていた。

その表情がまた胸に引っ掛かる。

堪らず尋ね様とするも、どう切り出していいのか分からず言葉を探していると「やっぱり暑いですね。」と言って着ていたカーディガンを脱ぎはじめたメディカにドキリとした。

あまり意識しない様に、目の前に広がる海を見るふりをして、チラリと隣りを気にしてしまう自分は別にやましいことを考えてるわけじゃないぞと心の中で呟く。

そんなドギマギしているトランクスに気付く筈もなく、メディカはカーディガンを腰に結び付けると、海の方へと歩き出した。

初めてサラサラとした白い砂浜に足を踏み入れ、その柔らかい感触と足を取られる歩きにくさを面白く感じた。

歩みを進める度に小さな砂の粒がパンプスの中へと入り込んで来て、足の裏をザラザラと刺激する。

メディカは波打ち際まで来るとパンプスを脱ぎ、中の砂を追い出した。

サラサラと落ちていく砂は波にさらわれ、その波はメディカの足先を撫でて行く。

寄せては返す人生初の海の感触は生温かいものだった。

期待していた「冷たい」ではなかったことに驚きながら、メディカは足元の波をじっと見つめた。