眼鏡を掛け、ブラウンのタキシード姿のトランクスは、さすが大企業のトップといったふうに堂々としていて、マイクの前に立つと、はっきりとした口調で挨拶を始めた。

初めて見るトランクスの「社長」という肩書を背負った姿に、メディカは圧倒される様な気持ちで壇上の彼を見つめていた。

普段の優しい表情とは違う、風格ある凛々しい表情に、トーンの低い声。

知らなかったトランクスの別の顔を垣間見て、またドキリとしてしまう。

そして、きっと会場中の全員が、そんなトランクスに魅了されているのだろう。挨拶の言葉を述べるトランクスの姿を誰もが静かに見つめていた。

挨拶が終わると、会場中に拍手が響き

「トランクス社長、ありがとうございました。」

司会者の声と共に、マイクから離れるトランクスの姿を見つめながら、メディカは胸が苦しくなった。

壇上での堂々とした存在感は、招待されている各界の有力者や著名人のおじ様たちだけでなく、当然だが、同伴している妻子や恋人までをも魅了している。

彼は、やはり住む世界が違う人だ―。

会場全体の雰囲気をひしひしと感じながら、メディカはウエイターから差し出されたシャンパングラスを受け取ると、グラスの中で弾けては消える、小さな粒を見つめた。

会場の一番後ろに一人きりで立っている自分と、華やかな人々に囲まれ、壇上に立つ彼との距離がとても遠く感じる。

手を繋いで、海辺を歩いたり花火を見たあの時間は夢だったんじゃないだろうか。

そんなことをぼんやり思っていると

「それでは、乾杯！」

という声が、会場に響いた。