「へくしゅん！」と、突然出たくしゃみに「大丈夫ですか？」と尋ねる声に「えっ、ええ！大丈夫です。」と、慌てて答えた。

家から出て数分。突然出たくしゃみに、母と妹の顔が頭を過ぎったのは言うまでもない。

（何か噂してるに違いない・・・。）そう思うも、数時間前に自分が隣りに座る彼女にしたことを思うと、当然かと思わざるを得なかった。

雨で視界が滲む大通りを走りながら、妙な緊張感に包まれた車内で、何か話題をと探していると

「明日も雨でしょうか。」

と言う静かな声に

「たまには雨でもいいですよ。街が綺麗になる気がします。」

そう言うと「ふふ。そうですね。」と、小さく笑ってから

「そう思うと、雨も悪くありませんね。」

柔らかく微笑んでいるだろう顔を思わせる声が続いた。

「ええ。そう思うと雨の日も悪くないって思えませんか？」

「ふふ。ポジティブな考え方ですね。そういう考え方、私も好きです。」

そう言った彼女はやはり柔軟だなと思い、何より自分に共感してくれたことが嬉しかった。

それからまた沈黙が続いたが、普通なら重くて仕方ないその時間も、心地良く愛おしいとさえ思えた。

アスファルトを照らす、滲んだ街灯の明かりの上を走り続けながら、トランクスはこの沈黙を堪能し、メディカを独占しているこの時を夢の様に思いながら、彼女のマンションへとエアカーを走らせるのだった。




「送って頂いて、ありがとうございました。」

「いえ・・・。」

「雨、強くなってきましたから、気を付けて帰って下さいね。」

「ええ。安全運転で帰ります。」