短い自己紹介をしているその間、梨子さんの姉である菜奈さんは、窺うような目で俺たちを見ていた。

　突然、見ず知らず人間を家に滞在させるわけだから、警戒するのは当然だろう。

　しかも、出産が迫っている大事な時だ。

　何者か分からない俺たちを滞在させるなんて、落ち着かないに決まっている。

　もし、この家に滞在出来ないとなると、それはそれで仕方ないか……。

　心の中で嘆息していた、その時。

「へぇ！　お母さんから聞いてたけど、ホントに日本語上手ね！」

　窺うような顔をしていた、菜奈さんの顔は一変。

　急に晴れ間が差したような、明るい笑顔になった。

　そして、俺と父さんの顔を交互に見ながら

「話すだけじゃなくて、こっちの言うことも分かってるのよね？」

　やや高いテンションで、尋ねてきた。

「え、はい。大丈夫です……」

　豹変した菜奈さんに、少しだけ母さんの影を見た気がして、戸惑うように答えると

「それ聞いて安心した～！　ちゃんと会話出来るじゃない！　よかった～！」

　菜奈さんは、安心したといったふうに、カラカラと笑い

「私はいまこんなだから、あまり気が利いたことは出来ないですけど、好きなだけウチにいてもらって構わないですから。何かあれば、私以外の家族が力になりますから、何でも言って下さいね」

　愛嬌のある笑顔で、俺と父さんを受け入れてくれた。

　そして、菜奈さんのご主人である孝明さんも、俺たちがこの家に滞在することを快く了承してくれ、俺と父さんは正式に、梨子さんの家に滞在することになった。