直感。本能……か。

「人を好きになる」って、それだけでいいの？
　
　仁美に言われたことが、その日一日中頭の中でグルグル回ってた。

　おかげで授業も放課後のピアノのレッスンも集中出来なくて、レッスン中、先生に何度か注意された。

　家までの帰り道でも、一人そのことばっかり考えてた。

　そして、トランクスさんのことも。

　答えが出るわけじゃないって分かってるけど、とにかく早く家に帰って、トランクスさんに会いたかった。

　私は帰るとすぐに、トランクスさんがいることを期待して、リビングへ直行した。

　けど、そこにトランクスさんの姿はなくて、いたのは、夜ごはんの用意をするお母さんと、それを手伝うお姉ちゃんだけ。

　……何だ。トランクスさん、いないんだ。

　ガッカリしてると、廊下の奥の部屋の襖が開く音がした。

　見ると、トランクスさんが部屋から出て来て「おかえりなさい」優しい微笑みを私に向けてくれた。

　その顔を見た瞬間、私の胸は急激に高鳴って

「たっ、ただいまです！」

　無駄に大きな声で、返事を返してた。

　トランクスさんが出て来てくれたことが嬉しくて、ドキドキしはじめてると

「梨子、もうすぐご飯よ」
　
　ダイニングテーブルに、料理を運ぶお母さんに声をかけられ

「あ、うん……」

　私は名残惜しみながら、制服を着替えるため、部屋へと戻った。

　部屋のドアを閉めると、私はさっき向けられたトランクスさんの微笑みを思い返して、胸をときめかせた。

　私だけに向けられたあの微笑みで、胸の奥が甘酸っぱい想いでいっぱいになってく。