そんな彼女の前にはカップのアイスクリームが置かれていて、笑顔の理由に合点がいった。

　いつも通りの彼女の姿に笑みが零れ、もう一度「おやすみなさい」そう言って、立ち去ろうとすると

「あ、待って！　アイス、一緒に食べませんか？」

　思わぬ誘いの声に、足を止めた。

「え、いや……」

　まだ、彼女の機嫌を損ねてしまうんじゃないかという怖れから、返事を濁すと

「あ……。アイス好きじゃないですか？」

　しゅんと寂しそうな顔をされ

「い、いえ。それじゃあ……」

　俺は怖れを振り切り、リビングへと入っていた。

「バニラですけど、いいですか？」

「ええ。ありがとうございます。いただきます」

　置かれたカップアイスの蓋を開けると、仄かに甘いバニラの香りが鼻先を掠めた。

　そして、それと同時に、また別の甘い香りが鼻孔をくすぐった。

　何の香りかと思ったが、その疑問はすぐに解消した。

　目の前の梨子さんもまた、風呂上りだったからだ。

　全身から沸き立つソープの香りは、バニラ以上に甘い香りを放っていて、俺の胸の中は何とも言えない甘酸っぱい気持ちでいっぱいになっていく。

　妙な興奮を覚え、それを抑えるように、慌ててバニラアイスを口へ運んだ。

　すると

「お風呂あがりのアイスって最高ですよね」

　梨子さんは、抑える気持ちを乱すように、満面の笑みを向けてきた。

　そして、その顔を見た瞬間

『もう、誰にもお姫様抱っこしないで下さい……』

　何故か彼女の拗ねるような声を思い出し、有り得ない期待で胸が膨らんだ。