解らない……。

　機嫌良く楽しそうに、夕食を食べ進めている梨子さんに、俺は首を傾げた。

　一体、どうして急に機嫌が直ったのか、さっぱり見当がつかない。

　そして、その疑問は、食卓を囲む全員が抱いていたようで

「あの子、やっと機嫌直ったけど、何で？」

　夕食後、梨子さんが自室に戻るなり、菜奈さんは溜息交じりに呟いた。

「結局、不機嫌の原因も分からず終いだし」

　続いた菜奈さんの問いの答えは知っていたが、さすがに「俺です」と名乗り出るわけにもいかず、乾いた笑みを浮かべやり過ごしていると

「まぁ、とにかく。梨子の機嫌が直ってよかったよ」

　苦笑いを浮かべ、安堵する礼堯さんの言葉に、全員が何かから解放されたような、ホッとした表情を浮かべていた。

　食後、部屋に戻るなり

「全く、女というヤツは解からん」

　父さんは愚痴っぽく呟き、座り込んだ。

　色々と思い当たる節があるのだろう。

　母さんの顔が頭を過り、苦笑いしていると

「まぁこれで、やっと飯が美味く食えそうだがな」

　父さんも、重たい空気が立ち込めていた食卓から、やっとこれまで通りの食卓に戻ったことに、安堵していた。

　確かに、あの重苦しい空気の中で食べる食事は、せっかくの美味しい料理の味を半減させていた気がする。

「そうですね」

　共感し頷く俺に

「ここでの楽しみは、あいつの母親の作る料理くらいだからな」

　父さんは眉間を寄せてから

「ただ。やはり、トレーニングをはじめると、あの量では足らん」

　腹部に手を当て、空腹感を訴えた。