車のヘッドライトが、雨で濡れたアスファルトを照らし通り過ぎて行く。

　雨のせいなのか、夕方と夜の間という時間のせいなのか。

　いつもより交通量の多い住宅街を、俺は梨子さんの手を握り歩いていた。

　思わず繋いでしまった彼女の手。

　少し力を入れれば、折れてしまうんじゃないかと思うくらい細く冷たいその手は、俺の胸をじわじわ熱くさせていた。

　先日、彼女を抱きかかえた時もそうだったが、俺は梨子さんに対して、咄嗟にこういう行動を取ってしまう。

　その最たるものが、あの夜のキスだ。

　まるで動物のように、本能のままに動いてしまう自分。

　そんな自分が、不安で仕方ない。

　いつか、取り返しのつかないことを仕出かしてしまうんじゃないだろうか……。

　ゾッとしてると

『またキスでもしてやって下さい』

　真琴さんの、やれやれ。といった黒い瞳を思い出し、俺の心臓はギクリと音を立てた。

　振られても尚、彼女を想い続けているが故に、梨子さんに触れたいという本能が働いてしまっている自分。

　この想いを断ち切らない限り、今度こそ何をするか分からない。

　心の中で大きく溜息を吐きながらも、あの夜のキスの感触を思い出し、ゾクリとした。

　一瞬触れただけとはいえ、あの柔らかな唇の感触は、いまでもハッキリと覚えている。

　自分にとっては忘れられない、甘酸っぱくも自己嫌悪してしまう夜の出来事。

　あの出来事を思い出し、顔が熱を持ちはじめたことに気付くと、俺は小さく頭を振り、その思い出を必死に追い払った。