本気で、私と一緒に、穴に呑み込まれるつもりらしく、手を離そうとしない梨子に

「どうなっても知らないからな！　後で文句言うなよ！」

　梨子を睨むと、梨子は一瞬息を呑んでから

「言わないもん！」

　覚悟は出来てるとばかりに、そう言い切った。

　胸の辺りまで穴に呑み込まれ、ふと空を見上げると、トランクスさんが私たちの名前を叫びながら、こっちに向かって来るのが見えた。

　だが、後ろから追って来ていたミラが、トランクスさんを阻み、それを見た瞬間、もうこの穴から抜け出す希望は無くなったと悟ると

　あーあ、くっそ……！　これで、あいつ等の思い通りか……。

　まんまと、トワとミラの思惑通りになってることを悔しく思いながら、私は、黒く渦巻く穴の中へと呑み込まれていった。



　ん……？

　気を失っていたらしく、薄っすら目を開くと、光が見えた。

　ただ、意識はまだぼんやりしたままで、完全に瞼を開く力は湧いてこない。

「時の狭間」ってとこに繋がってるって言ってたっけ……？
　
　寝転がったまま、トワの言葉を思い出していると、サワサワと木々を揺らすような音と、土の匂いが、耳と鼻から伝わってきた。

　何故か落ち着く、その音と匂いを堪能し、ゆっくりと目を開くと、陽が傾きつつあるような、薄い水色と黄色が混じった空が、目に映った。

　その空をしばらく眺め、ゆっくり上体を起こした私は、目に飛び込んできた景色を見て、固まってしまった。

　目に映ったもの――。

　それは、よく知ってる、生まれ育った町の風景だった。